どうでも良い、全てがどうだって良い。
今さっきまで会ってたトモダチも、流れている音楽も、人の行き交う喧騒も。
『厭世観』を身体に満たして、『虚無主義』を此の手に翳して。
これから会うトモダチも、他人に嘘を吐く事も、何も彼も、どうだって。

 独り、HMVから下りエスカレーターの上。













 「僕は、何をしているんだろう。
隣に誰も居ない。世界が、回っているだけだ」



 頭の中、文章を掘り起こす。
考えている、考え出している、というよりも、在ったものを取り出す感じ。
目の前に在らぬ方向から彼方向こうへ飛び出してきた子供を
「だからガキは嫌い」と呟きながら避けて、其れは日常の一環。
言葉の端が見つかれば、其処を掘りさえすれば良い。
何時かは全体像が見える筈の、発掘作業。



 「此の場所にきっと立っているのに、何の地面も無いんだ。
浮いてない、これはそんな心地良いものじゃないってのは判ってるのに」



 見当をつけて掘ってみたって、そりゃ予想と違うものが出てくる。そんなの日常茶飯事。
ならもう少し場所をずらせば良いんだ。其れだけ。
HMVの洋楽フロアーを通り抜けた。趣味じゃない服飾が一面に並ぶ。



 「足が、生えているようだ。いや足じゃない、身体が。
どうしようもなく生い茂っているのだ・・・要らない地面から。
そりゃ、感じない筈だ」



 知らなかった言葉に納得。溢れた言葉の中に、何か真実のひとひらを探す。
思いも寄らない言葉から、面白そうな発想が顔を覗かせる。
やっぱ五階のフロアーであれ買っておけば良かったな、なんて。
地下街に繋がるB1に降りてから、ほんの少しの後悔。



 「しかし何故かな、狭いのだろうか。
雨は降るのに、一向に成長の兆しが見えないのだ。
何時まで経っても此の場所に鎮座したまま何処にもいかない。
降る雨は酸性雨、なのだろうか。此の侭融け朽ちていくのが妥当、なのだろうか。
知らない、なぁ」



 留まりはしない消えてゆきそうになる端を必死で掴んで、欠片も逃さないように探す。
その間にも、「着いたけど・・・今どこ?」。携帯電話が曲を鳴らして、他人からのコンタクトを主張する。
仕方無い。手馴れた決まりきった返信、「向かってる。」、其れを短く送信しようと。
エスカレーターを横にしながら、階段を降りてゆく。ちんたら歩いてっと突き落とすぞ、微々たる殺意。



 「もはや痛覚すら、まともで無くなったのかもしれない。
心臓は収縮を繰り返しているものの、本当に血を流しているのか不思議な感じがする。
ああさっき朽ちていくのかと想ったけれど、実は既に、腐っているのかもしれない」



 言葉は携帯電話に移植、メールの新規作成をメモ代わりに。
だって掘り当てたもの、其の侭にしたら風化して消えてしまうから。
馬鹿みたいに派手なオナゴの間も、場所を弁えないイチャツキアベツクの真ん中も、
急ぎ足のリーマンの横も、マイペースを貫く。
そうしているうちにトモダチから電話。メルコの送信は一歩届かず。簡単な会話、「もうすぐ着くよ」。



 「何が正しいかなんて何も知らないから、判断の基準なんて無いけれど」



 よく歩いて慣れきった道、迷う事なんて無い。
掘り続けた言葉の全体像も、ようやく見えてきた気がする。
あぁ、ちょうど。目的地に続く自動扉が開く。
ベージュの春コート、裾を上下させ近づく人間。軽く手を挙げる。



 「何を、しているんだろう」



 「遅れたね。済まない」
「ううん、大丈夫ー」
「悪いね。じゃあ、行こうか」
「うん」



 「生も死も全て例外無く含めて、嗚呼、何をしているんだろうか」



 メールの新規保存。そうして携帯電話を閉じる。
未送信メールは何処にも届かない、誰にも、届かない。
そんな事、当然の周知の事実。



 「生も死も全て例外無く含めて、嗚呼、何をしているんだろうか」



 「何処行きたいんだっけ」
「取り敢えずー・・・」



 嗚呼、何をしているんだろうか。